初版から2年がたち、大きな改正が重なったことからこれらを網羅した改訂版とすることになりました。これらの改正は商標の利用を促進する改正であるものの、商標出願を担当する者としては、これまでとは異なる手続上の注意や新たな検討が必要となっています。
例えば、小売業等の役務が商標として保護されることとなり、あわせて商標登録の料金が改定され、団体商標の出願人の制限が緩和されることになりました。
これらの規制の緩和により、商標の出願がより身近なものとなり、小資本の方など多くの事業者が商標出願の対象となるようになりました。その一方で、1区分内で広範な範囲を出願した場合は「使用証明」を求める運用が導入され、出願前に実質的に検討する事項が増えることとなりました。
商標に関してはさまざまなトラブルが新聞紙上をにぎわしておりますが、本書の目的にありますように誰でもが商標の手続ができるようにさらに充実した内容にまとめたつもりです。また今回は、(財)対日貿易投資交流促進協会(ミプロ)の外国ブランド権利者名簿制度も入れ、海外との取引に関係している方の便宜も図れるようにしてあります。これらの事態に対応しなければならない読者の皆さまの参考としていただければ幸いです。
最後に、今回の改訂にあたり中央経済社の編集者の露本 敦さんには予定どおりの進行ができずご迷惑をおかけすることとなりお世話になりました。ここに深く謝意を申し上げる次第です。
2008年9月1日
正林真之
商標というのは、我々にとって最も身近な知的財産です。しかしながら、身近な知的財産であるとは言っても、実際に商標登録がどこで行われ、またその商標権がどのように活用されるかということについて、詳しく知る人はそう多く居るわけではありません。
また、企業の知的財産部や法務部に属する方であれば、そのこと自体はよくご存知なわけですが、より詳しい手続となると、やはり戸惑うものがあります。それに、企業にしても、知的財産部や法務部を一歩離れてしまえば、商標登録はどこの官庁で行われるのかということについてすら、全く知られていないわけです。いずれにしても、これだけ身近な知的財産でありながら、商標登録に関連する多くの方々が、何らかの問題を抱えており、自分の商標登録をスムーズに行うことができない状態でいるのが現状です。
こうしたことを解決するために、商標登録に関する代理業務を行う職種として、弁理士という職業があります。商標登録というのは、実は特許庁という官庁に対して商標登録出願をすることで行われるわけですが、弁理士はその特許庁に対する職業代理人です。けれども、弁理士と言っても様々ですから、誰に依頼すればよいのかわからないというのが現実問題としてあるのです。無論、特許庁の工業所有権相談所や日本弁理士会の発明相談所に行けば、商標登録の手順はきちんと教えてくれますし、また、場合によっては弁理士の紹介をしてくれることもあるでしょう。
けれども、弁理士の数は、実はそれほど多くなく、商標を専門にしてそれをきちんと行える弁理士の数というのは極めて少ないのです。そして、そこから生じる問題としては、商標を専門とする弁理士で有名な先生は非常に仕事が多く、素人の質問や出願手続などに構っている時間などない場合が多いのです。その一方で、素人の出願や相談に関してゆっくりと相談にのれる弁理士というのは、仕事が少なく、あまり当てにできないことも多いのです。要するに、自分の背丈に合った弁理士を選ぶというのは、非常に困難なものがあるのです。更に、商標登録に関する各弁理士の取り扱い手数料も様々ですから、果たしてその手数料(弁理士手数料)が高いのか安いのかもわかりませんし、その目安になるものもわからないというのが普通ではないでしょうか。
一般的に、こうしたことは、商標に関する問題としてインターネット等で検索すれば、それなりの検索結果が得られ、安くて早い弁理士なども見つかるかもしれません。けれども、そこにいきなり仕事を頼むというのは、やはりそれなりの勇気が要るものです。
こうしたことから、大抵の場合には、歯医者を選ぶのと同じように、弁理士においても、紹介という手段が用いられるのが普通です。
しかしながら、商標登録出願というのは、実はそれほど難しいものではありません。そのやり方さえわかってしまえば、弁理士に依頼しなくてもできる類のものです。無論、これから事業の命運の全てを賭けて出願をし、かつ同時に使用も開始するといったような深刻な状況にある場合には、専門家である弁理士の鑑定等を受けて、きちんとした手続をする必要があるでしょう。けれども、「こんな商標を取って将来活用できるかもしれない」というようなまだ未来の構想段階では、自分である程度の調査をして、商標登録出願を自分でしてみるというのも面白いものです。
幸い、特許庁というのは日本の中でも最も親切でかつ電子化の進んだ官庁です。現在では、パソコンを使ってインターネット経由で特許庁に商標登録をすることができるようにもなり、また、特許庁のホームページにアクセスすることによって、容易に商標の検索をすることができるようになっています。こうしたことから、これらのツールを充分に活用することによって、自分で商標調査や商標登録出願をし、それに対抗することは十分に可能な状況になっています。これは、一般企業などで、商標登録出願に関する手数料のコストを抑えたいと考えている方にも有用な情報です。けれども、今まではそういったことをきちんとする本というのは、なかなか無かったというのが現実です。
それはなぜかといえば、そうした本を出すことによって、弁理士という職業の仕事量が減少するというような考え方をする方が居たためです。けれども、そういった狭い考え方というのは、これから捨て去られていくものだと思います。商標登録を各自が行うことができるようになれば、商標に関する事件がこれから増えていくことになります。そうしますと、そうしたトラブルが起こったときにこそ、弁理士という職業代理人のプロフェッショナルが発揮されることになります。ですから、商標に関心を持つ方が増え、それによって商標に関する相談事が多くなれば、それこそ弁理士の活動領域が広がるものだと私は信じています。
ですから、皆さんにおかれましては、本書によって商標登録出願に関する手続を行う上で必要な知識を深めて頂き、より商標を身近なものにして欲しいと思っています。そして、商標制度というものを皆様の経済活動にうまく役立てて頂き、商標に関するトラブル(他人による模倣や権利侵害の問題)等が生じた場合には、難しい問題である場合には特に、職業代理人である弁理士に依頼をし、自らの事業を法律的な面からもしっかりとフォローして頂ければと思っています。
最後に、本書の出版にあたり、このような機会を与えていただいた中央経済社、編集次長 露本敦氏、安澤真央氏に感謝いたします。
平成18年6月
正林真之
監修:正林真之
著者:小野寺隆 藤田和子 園部武雄
出版:中央経済社
A5判 / 304ページ
価格:2,800円(税別)
発行日:2008/10/31