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司法修習生インタビュー 2008

 2008年、当事務所では司法修習生をはじめて受け入れました。
 司法修習生の高橋喜一さんに、2週間にわたる当所での実務修習を経験した感想などをインタビューしました。さらに、司法修習とはどのようなものか、当事務所を選ばれたきっかけ、なども伺いました。

 知的財産に関わる新たな人材が、どのような過程・経験を得て誕生するのか、知財を扱う業界の方、知財に興味のある方に是非ご覧いただきたい内容です。

(インタビューは、修習最終日の前日に当事務所内でおこなわれたものです。)

司法修習とは?

今回の当事務所での修習はどのようなものでしょうか?

 選択型実務修習というもので、現場で仕事を教わるというフェーズにいま私はいます。
 司法修習は大きく分けて、実務修習と集合修習とがあります。最近の場合(新司法修習)では、3フェーズに分かれ、実務修習(分野別実務修習)、集合修習、選択型実務修習というように分かれています。
 最初に実務修習を8ヶ月、次に集合修習を2ヶ月、最後に選択型実務修習を2ヶ月、合計で1年間の修習となります。

 実務修習は、弁護士会・裁判所・検察庁のそれぞれの現場で仕事を教わるフェーズです。その後、集合修習では司法研修所において、主として座学の教育を受けるフェーズがあります。集合修習が終わると選択型実務修習です。

いま高橋さんが受けられている選択型実務修習とはどのようなものでしょうか?

 現在、司法試験制度、司法修習制度が大きく変わってきている最中です。
 司法研修所という、司法試験合格者を教育するための機関が埼玉県和光市にあります。その司法研修所で約1年半から2年間の教育があります。主に訴訟実務などを学びます。
 そして昨年から、研修所での修習とは別に、実際の実務の現場でも研修(修習)をしようという制度が始まりました。修習期間の2ヶ月間を使い、企業の法務部さん、特許事務所、税理士事務所、自治体の法務部のような研修所ではない所で各自研修をしてくださいという制度です。研修先を自分で選び、自分で開拓してよいとなっています。

研修先を選ぶ基準は、法務関係であればよいということなのでしょうか?

 そうですね。
 修習生が多様化し、弁護士の仕事も多様化しています。各修習生が、自分の将来の進路に役立つような修習先を、自分で見つけてきて自分で勉強してきてください、ということですね。研修所の教育(実務修習)というのは、決まっているメニューを受けるものですが、選択型実務修習の2ヶ月間に限っては自分で選ぶことができます。

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当事務所を選ばれた理由

当事務所で選択型実務修習を受けられるきっかけというのは何だったのでしょうか?

 私の場合、司法試験の選択科目が知的財産法だったということがあります。元々、知的財産法にはすごく興味があり、知的財産関係の研修をしたいと思っていました。
 実は、正林さんのこの事務所は、私の自宅の近くなのです。また、司法試験の受験生時代には、正林さんのテキストを使い特許法の勉強をしていました。さらには、私の妻が正林さんの論文マスター講座(LEC)の受講生なのです。
 そういったこともあり正林さんとなんらかの接点を持ちたいと、かねがね思っていたところに選択型実務修習が始まりました。それで連絡をとらせていただきました。
 正林さんから「2週間ぐらいどうぞ」ということで受け入れてくださったという経緯です。

2ヶ月間の中の2週間なのですね?

 そうです。2ヶ月間すべて同じところで、というわけにはいかないのです。最長で2週間ぐらいですね。この2ヶ月間は他の場所にも行きます。例えば、東京弁護士会に1週間、大阪地方裁判所の知財部に2週間といったように、同じところで2ヶ月間というのはありません。
 偏らないようにという配慮なのですが、いろんなところから幅広く学んできなさい、という趣旨もあります。

2週間というのは短いと思うのですが、いかがですか?

 特許事務所の業務を2週間で理解するのは不可能ですね。私もいろいろともっと見たいものがあります。ただ、私は弁理士になるわけではないので、弁護士の教養のひとつとして弁理士事務所の業務を広く浅く見るという意味で、2週間というのは良い期間だったと思います。
 それと、こちらの事務所の方との人脈を築くことができたのが一番大きいですね。知財関係で何か困ったことがあったら、こちらにご相談すればいいんだ、ということが確立できましたので、弁護士として非常に大きな財産になったと思っています。

弁護士さんでも知財を扱われる方がたくさんいらっしゃると思います。でも、弁理士は知財を中心に専門的に扱っているから頼りになるのですね?

 そうなのです。
 弁護士というのはオールマイティな資格のように思えても、専門的なことを自分でやるわけではありません。お客さんを代表して代理はしますが、結局、税のことは税理士さんに頼みますし、登記のことは司法書士さんに頼みます。同じように、特許などの知財のことは弁理士さんのチカラを借りることになるわけです。
 お客様の窓口になるのは弁護士、特に裁判所ではですね。裏ではいろんな人に助けを請わないと何もできない仕事なのです。

修習が終わられると、弁護士ということでしょうか?

 はい。12月から弁護士登録をする予定です。

特に知財関係を扱われるのでしょうか?

 そうですね。ただし、新人弁護士のところに、特許関係の仕事の依頼がそう簡単には来ません。最初の1~2年は弁護士会の委員をするなどして知財関係の修行をしなくてはいけません。
 東京には弁護士会が3つあるのですが、各弁護士会には知的財産権部というのがあります。そちらで委員をしたり、研究活動をしたり、様々なところで講演や教えたりしながら、さらに、侵害訴訟でベテランの先生と共同代理するなど、そういうところから始めていくことになると思います。

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知的財産に関わるきっかけ

ここで修習の話から変わりますが、高橋さんが知的財産を選ばれたきっかけはあるのでしょうか?

 それがあります!
 私は、昨年の9月に司法試験に合格しました。その前には、琉球大学の法科大学院に通っていました。沖縄ですね。

沖縄ですか。いいですね。

 はい。私自身のバックグラウンドを話すと長くなるのですが・・・
 私はIBMに勤めていたのですが、2004年に辞めて司法の道に入りました。IBMにいた当時の上司が沖縄好きの人で、毎年ダイビングに行かれるくらい沖縄好きで、その影響で私も沖縄に興味がありました。
 司法試験の勉強をするとなると3~4年は灰色な生活を送ることになるので、せめて気候のよいところに住みたいと沖縄に移住しました。そして、3年半ぐらいずっと法律の勉強をしていました。
 その時に琉球大学では、弁護士の金井重彦さんという著作権法の大家の方が教鞭をとられていたのです。今は司法試験の委員をされている先生なのですが、その方と出会い知的財産の面白さに目覚めたというのがきっかけです。
 それ以来、その影響力が大きくてですね、私の妻は薬剤師で知財とまったく関係のない仕事をしていたのですが、金井先生から刺激を受けた私から、さらに刺激が妻へと伝わりました。妻はいま弁理士の受験勉強をしています。

金井先生から非常に影響を受けたのですね?

 そうなのです。

それ以前、IBMさんに勤めていらしたときには知的財産に関わることはなかったのでしょうか?

 まったくありませんでした。IBMではコンサルティングをしていたのですが、知財と関係することがなくて、そもそも知的財産法にどんな法律があるのかすら知りませんでした。全く知財と縁のない仕事でしたね。

当事務所内にもIBM出身の方がいるのはご存知でしたか?

 はい。伺いました。辞めてから、どんな所に行ってもIBMの方、IBM出身の方に会いますね。

それまでされていたこととまったく違う司法の道に入られたのですね?

 ぜんぜん違いますね。元々、実家は不動産屋をしており、大学を出た後は住友不動産に勤め不動産修行をしていました。何を思ったか、外資系企業で働くのもいいかなとJPモルガン・チェース銀行に転職し、その後でIBMに転職しました。
 不動産、銀行、機械、実は証券会社に勤めていた時期もあります。好奇心が止まらないのです。いい年をして(笑)。それならとことんやってみようというのがあります。

過去の経験がバックグラウンド、ベースとなってこれから役に立つのではないですか?

 そうでしょうね。
 日本で商売をする上で、IBMとの接触は避けて通れないな、というのが私の感触です。どのような会社かをよく知っているということが非常に大きな武器になりますね。

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実務修習を受けるためには

話は司法修習に戻りますが、知財を選ばれたきっかけは金井先生なのですね?

 金井先生との出会いですね。あとは、特許法、著作権法が得意科目だったということです。

司法試験の選択科目で知的財産法を選ばれる方は多いのでしょうか?

 毎年違いますが、司法試験受験生の4人に1人が知的財産法を選んでいるのではないでしょうか。

当事務所で司法修習生を受け入れたのははじめてでした。特許事務所で司法修習生を受け入れたという話をあまり聞いたことないのですが、今後どのようになっていくと思われますか?

 そもそも司法修習生は若い人が多いのです。その若い人たちが、特許事務所に繋がりがないのに自ら開拓して飛び込んで「受け入れてほしい」という交渉ができる方は、なかなかいないと思います。私のように、社会で何年か経験を積んだ後で修習生になり、知財を選択して特許事務所に飛び込むというように、自信がないとできないわけです。だから、多くはないと思います。
 そこに心理的なハードルがあるのだと思います。
 また、司法修習生の間でも、特許事務所が司法修習生を受け入れてくれるという発想が、今の時点ではあまりないのだと思います。前例が少ないですし、特許事務所は1人事務所みたいなイメージがあります。正林さんの所のような事務所が世の中に存在するということ、そういった特許業界、弁理士業界ではすごく有名な事務所でも、実は司法修習生の人たちは知らない人が多いのだと思います。

修習が受けられる企業・事務所の案内のようなものはないのでしょうか?

 ないのです。自己開拓型研修ですから、裁判所のほうで斡旋してもらえないのです。

おおまかにもですか?

 だめなのです。
 というのも、この2ヶ月間の修習は各自が、自分の興味のある分野を開拓していって自発的に勉強することに意味があるので、裁判所のほうから、ここがいいよとか、そういうことを一切しないというのが前提なのです。

この企業、事務所に行きますというのは事前に申請されるのでしょうか?
修習後の報告はするのでしょうか?

 はい。申請して、研修内容について紙2枚ぐらいを提出し、裁判所の許可が出てはじめて、現場に来ることができます。2週間の修習が終わったら報告書を書いて裁判所に提出します。ですから裁判所は、ここの修習はよかったと認識するわけです。ただし裁判所としては、あそこの修習はいいと分かっていても、それを修習生に言ってはいけないのです。

ちょっと冷たいですね(笑)

 ええ(笑)。そういうヒントを与えてしまうと、自己開拓するという趣旨に反してしまうので言えないようです。

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当事務所での修習について

当事務所で修習を受けられていかがでしたでしょうか?

 期待通りだったと思います。
 いわゆる1人事務所で、属人的に仕事をしている所に行っても、結局はスーパーマンパワーを見せつけられて終わってしまうだけです。
 きちんとマニュアルを作り、ルールを作り、組織として、チームとして行動する仕事の進め方を見たいと思っていました。それが、こちらの門をたたいた理由の1つでもあります。正林さん1人のスーパーマンパワーを見に来ても仕方がないのです。それは真似ができませんので。
 事務所としての仕事の進め方を見たいと思っていましたので、今回は非常に参考になりました。弁護士事務所でも、ここまで人の配置などを工夫している専門家集団は、そうはありません。よい刺激を受けました。

修習の内容のカリキュラムというのは事前に出されるのですね?

 はい。今回の場合、大きく分けて4つです。まずは出願手続きの実務、次に紛争処理の実務、そして、コンサルティング業務、さらに海外関係です。2週間でひと通り見せていただいています。

高橋さんが修習にいらっしゃる前に、事務所内掲示板には、「司法修習生受け入れの告知」とスケジュールが掲示されました。それを見て、内容が濃いな、と思っていたのですが、事前に立てられていたものなのですね。ご自身で考えられたのですか?

 ええ、事前に立てたものです。裁判所からその内容で許可を取っていますので変えることはありません。 内容については、こちらの弁理士さんと相談しながら決めました。
 やはり事務所の特色を踏まえてやろうというのがありました。特に国際業務はこちらの事務所のひとつの強力な柱ですので見ておきたいと。紛争処理もそうですね。紛争処理をまったくやっていない事務所もありますが、こちらではチカラを入れて取り組まれていますので見せていただきたいと。それと当然、出願手続きは絶対に見なくてはいけないものですね。

短い時間で受けられていますが、当事務所の対応はいかがでしたでしょうか?

 皆さん忙しいのは見ていて分かります。それなのに、よく相手をしていただけるなと思いました。売り上げに何も貢献しないことですし。だから、私はなるべく仕事の邪魔をしないようにと思って来ていました。
 ところが皆さん忙しい中、時間をとっていただいて、内容も業界の最先端を行くようなものを見せてくれるのです。こんなことまで裁判所の人間に見せてしまってよいのかというようなものをです。最先端のビジネスノウハウですね。そう簡単に真似することができないから見せられるのだと思いますが、見せていただき非常に感謝しています。
 自分だったらあまり見せたくないノウハウってありますよね。皆さんは包み隠さず見せてくれました。10年間でこれを築いたというのがすごいと思います。
 所員のみなさんの高いモチベーションを感じます。家が近いというのもありますが、弁護士になったときには、正林さん、所員の皆様と引き続きお付き合いしたいなと思いました。

弁理士だけではできないこともあります。弁護士の先生にお世話になることもありますので、こちらこそよろしくお願いいたします。

 私は、社会保険労務士の資格もありますので、労働関係とかも比較的得意です。知財に関してはこちらにかないませんが、それ以外の分野では、ご相談にのれることがあるかと思いますので、そういったところでお力になれると思います。

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知的財産について

では最後に知的財産に関して、知財の今後や重要性など、高橋さんご自身の考えなどをお聞かせいただけますでしょうか?

 いま景気が低迷している中で、日本が活力を取り戻していくためには、知的財産を活かす産業のありかたというのが、もう一度問われる時期に来ていると思っています。「知的財産の活用」と「知的財産の保護」ですね。この両方の側面から日本の知財を守って育てていかなければいけません。
 そうなってくると弁理士も弁護士も、もっと勉強しなくてはいけないと思います。というのも、技術は日進月歩ですが、知的財産に絡む法制度もめまぐるしく変わっています。それと、中国に代表される、知財を取り巻く環境も大きく変わってきています。
 ここで、手をこまねいていてはいけないですね。いろいろな研究をしなくてはいけないですし、いろいろな人材が増えていかなくてはいけないと思います。それと、法制度も整備しなくてはいけない。そういった仕組みの中に自分が関与していけたらと思いますし、その過程の中で正林国際特許商標事務所の皆さんと一緒に仕事ができたらと思っています。
 知財がきっかけで弁護士になるからには、知財と一生関っていきたいと考えています。

明日が最終日ですね。

 はい。所内でレクチャーを受けた後に、特許庁の見学をして終わります。

ありがとうございました。
明日1日ありますが、修習お疲れ様でした。今後のご活躍をお祈りしております。


インタビュー・写真撮影・ページ制作: 正林国際特許商標事務所 広報グループ
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正林国際特許商標事務所について
正林国際特許商標事務所は、1998年に設立され知的財産に関する幅広いサービスを展開しています。今では従業員数200名の規模に成長し、クライアントは500社を越えます。米国オフィス設立など国際的にも展開し、海外サービスも提供しています。化学・機械分野のほか、ITなどの新しい分野も扱い、知財の権利化、調査、活用のコンサルティング、さらに侵害訴訟に対応し、お客様の知的財産を総合的にバックアップいたします。

最高裁判所 新第61期司法修習生 高橋喜一さんインタビュー目次 各項目へリンクしています。クリックすると移動します。司法修習とは?当事務所を選ばれた理由知的財産と関わるきっかけ実務修習を受けるためには当事務所での修習について知的財産について

高橋喜一さん

 高橋喜一さんがお持ちの資格など
 ・TOEIC 975点
 ・実用英語検定準1級
 ・宅地建物取引主任者
 ・社会保険労務士
 ・日本証券業協会
  証券外務員第1種/
  内部管理責任者
 ・Oracle Platinum Master
 ・情報セキュリティアドミニストレータ
 ・Cisco Certified Network Associate